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静岡地方裁判所 昭和47年(ワ)113号 判決

原告 別紙原告目録一、同二記載のとおり

原告ら訴訟代理人弁護士 下光軍二

右訴訟復代理人弁護士 安彦和子

原告ら訴訟代理人弁護士 上田幸夫

同 両角吉次

被告 内村健一

右訴訟代理人弁護士 浅見敏夫

同 中村尚彦

主文

被告は、原告目録一記載の原告らのうち、番号1ないし15の原告らに対し各金一〇万円、番号16ないし21の原告らに対し各金二万円、原告目録二記載の原告らのうち、番号22ないし40の原告らに対し各金四万円、番号41の原告に対し金一万円及びこれらに対する昭和四七年四月二七日以降各完済に至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告の事業内容

被告は、昭和四二年三月から、熊本市甲佐町の自宅において、「親しき友の会」と称する無限連鎖式の講を創設、主宰し、昭和四六年四月、五月当時は、同市本山町六三五番地において、第一相互経済研究所という名称で、同じく被告の創設にかかる無限連鎖式の「相互経済協力会」、「交通安全マイハウス友の会」、「中小企業相互経済協力会」の各講を主宰していたものである。

(一) 各講の仕組

(1) 親しき友の会

被告に対し一、〇八〇円、被告の指定する既加入者に対し一、〇〇〇円を送金することにより本講の加入者となり、当該加入者が四人を勧誘して加入せしめることにより、将来一〇二万四千円を受領し得るというシステムである。

この仕組を図示すると次のようになる。

(2) 相互経済協力会

昭和四四年六月に創設、実施された。

被告に対し一万円、被告の指定する第一段又は第五段の先輩加入者に三万円を送金することにより本講の加入者となり、当該加入者が二人を勧誘して加入せしめることにより、将来一〇二万円を受領し得るというシステムである。即ち、加入時に、第七段にランクされると、当該新規加入者は被告から「相互経済協力会御入会のおすすめ」と題するパンフレット及び「通信欄」と題する書類を、各二部づつ送付される。この「通信欄」と題する書類には、番号1から番号6に該当する六名の者の会員番号、住所、氏名が記載されている。これらの者は、その当時の第一段から第六段に位置する先輩加入者である。そして、この二部の「通信欄」中、一部の方には、番号①の者に丸印、他の一部には番号⑤の者に丸印が付されている。当該新規加入者は、二名を勧誘して各々に対し「パンフレット」及び「通信欄」と題する書面を交付する。番号①の者(第一段)に丸印を付された「通信欄」を交付された者は、被告に一万円、右の印の者に三万円を送金して本講に加入し、番号⑤の者(第五段)に丸印を付された「通信欄」を交付された者は、被告に一万円、右の印の者に三万円を送金して本講に加入する。このように二名の勧誘加入に成功した者は、一段上位になって、第六段の位置に移動する。こうして段を上昇し、第五段の位置の時、第七段の加入者二名から三万円づつ計六万円の送金を受けることとなり(孫にあたる加入者から送金を受けるので「孫取金」という。)、第一段の位置の時、第七段の加入者六四名中三二名から三万円づつ計九六万円の送金を受けることとなり、合計一〇二万円を受領しうるというシステムである。これを図示すると、次(上)のようになる。

(3) 交通安全マイハウス友の会

昭和四四年一二月から実施された。

この仕組は、送金額、段数、受取金額以外は、「相互経済協力会」と同じである。即ち、段数は八段、被告に対する送金額は二万円、被告が「通信欄」において丸印を付して指定した第六段又は第一段の者に対する送金額は八万円、受取金額は、孫取金一六万円、第八段の者からの送金額が六四名から八万円づつ計五一二万円、合計五二八万円ということになる。

(4) 中小企業相互経済協力会

昭和四五年一二月から実施された。

仕組は、送金額、受領金額以外は「交通安全マイハウス友の会」と同様である。即ち、送金額は被告に一〇万円、被告の指定する者に五〇万円、受領金額は孫取金一〇〇万円、第八段六四名からの送金額計三二〇〇万円、合計三三〇〇万円ということになる。

(二) 加入時の手続

勧誘を受けて各講に加入しようとする者は、被告の指定した者に対し所定の金額を現金書留郵便で送金する。次いで、交付された「通信欄」の最下位の段(第七段又は第八段)に自己の住所、氏名を記入し、かつ、送金した郵便局名と引受番号を記入し、振替用紙で被告に対し所定の金額を払い込む。その後、被告から、会員証と、二名を勧誘するための前記各書類の送付を受けるわけである。

(三) 各講を創設する際の仕組

創設時には、新加入者が送金すべき既加入者が存在しないため、原始会員八名(親しき友の会の場合は九名)を定めて次表のように組み合わせて相互に送金しあう。(考え方は各講共通であるから、「交通安全マイハウス友の会」を例示する。)

a1

a2

a3

a4

a5

a6

a7

b1

a8

会方

員法

以で

下加

が入

通者

常獲

の得

b2

2名

b3

4名

b4

8名

b5

16名

b6

32名

b7

64名

b8

128名

原始会員アイウエオカキクの八名を表のように組み合わせる。A列からH列まで方法は同じであるから、A列について述べると、まずa8のアは、a1のクに送金して、自ら、b2の二名を勧誘して加入させる、b2の二名中、一名は、二段上のa7のイに、他の一名は、七段上のa2のキに送金する。b2の二名がb3の四名を勧誘して加入させた場合、b3の四名中二名はa8のアに、他の二名はa3のカに送金する。以下同様に送金されることになる。

(四) 各講加入者の保養所無料使用と見舞金の制度

講加入者は、被告が設立した全国各地にある保養所を加入後一年にかぎり無料で使用することができる。

又、講加入者は、交通事故その他の事故により死亡又は不具廃疾となったときは、「相互経済協力会」加入者は最高一〇〇万円、「交通安全マイハウス友の会」加入者は最高五〇〇万円、「中小企業相互経済協力会」加入者は最高三〇〇〇万円の見舞金を、加入後一年にかぎり、被告から送られる。

2  被告の事業の違法性

(一) 本件各講の仕組の違法性

(1) 本件各講は、会員の大多数が必然的に損害をこうむるように仕組まれている。即ち、一人から二人、二人から四人、八人、一六人、……と、ねずみ算式に加入者を増加させることにより、後続加入者からの送金によって、先順位の加入者が利益を受ける仕組になっている。しかしながら、人口は有限であるから、後続会員が無限に連続することはあり得ず、従って、いつかは破綻を来たすことは必然的なのである。ちなみに、原始会員八名で発足したという「相互経済協力会」を考えれば、二五代目の会員数が一億三四三三万七七二八名となり、日本の人口を上まわることになる。日本の人口のうち、加入しない者が圧倒的に多数であることを考慮すれば、会員の増加が限界に達して破綻が遠からず到来することは目に見えている。そして、破綻の結果、下位の二段階の加入者全員が、全く送金を受けることができなくなり損害をこうむることになるが、その数は、加入者総数の中の大部分を占めることになるのである。

(2) 本件各講は、必然的に行きずまりを生じ、その結果、勧誘者と被勧誘者との間に紛争を生じさせる要因を内在している。即ち、本件各講は、加入に際して金員の拠出を要するため、信頼関係のある親族、知人等を勧誘せざるを得ないものであるところ、加入した後、後続会員が続かず送金を受けられなかった場合、勧誘した者の言を信じて加入した者においては、勧誘者に対する従来の信頼感を喪い、或いは又、勧誘者に対して、拠出金の返還を求めるなどの事例が数多く生じることとなり、時には、暴力行為を伴う事例も発生し、又、拠出金の返還請求を受けた者の側の自殺事件、夜逃げなどの事件も各地で発生するなど、本件各講は、社会悪の根源ともなっている。そして、このような諸現象は、本件各講の仕組から必然的に発生するものであると言わざるを得ないのである。

(3) 本件各講は、講の加入者或いは他人に悪用されやすい特質を有するものである。即ち、加入者のある者は、組織的に本件各講を利用し、被告及び先輩加入者に対する本来の拠出金を上まわる金額を自己のもとに送金させ、一たんプールした上、本来、勧誘者の下位の次順位に位置すべき加入者を、他の者の下に位置させて、真実の勧誘者、被勧誘者の関係にない新規加入者を「通信欄」の最後の順位の欄に記入して被告に送るなどして、自らの利益をはかり、本来の方法であれば受けられるはずの後続会員からの送金を受けることを妨げて加入者に、より多くの損害をこうむらせ、又、ある者は他に類似の講を実施するなど、本件各講は、多くの社会悪を生み出している。

(4) 本件各講は、社会的生産を伴わずに、出資金の約二五倍から五五倍の金員を入手する可能性を有する仕組となっており、又、不特定多数人を対象としていることから、ある者に対しては健全な勤労意欲を喪わせ、ある者に対しては射倖心をそそるなど、善良な国民育成に反する反社会的性質を有する。

(二) 本件各講創設、主宰の目的の違法性

被告が本件各講を考案し、主宰している目的は、加入者からの莫大な入会金を自己のために利得することにある。被告に送金された莫大な金員のうち、一部は加入者の利用に供せられている各地の保養所の建設、運営、或いは福祉事業に対する寄附に投ぜられているとはいえ、大部分は、被告の趣味による高価な物品の購入、映画製作、度々の海外旅行に費消され、或いは、被告の別名である第一相互経済研究所の資産として確保されているのである。しかも、被告は、行きづまって送金を受けられず困窮している加入者に対しては、いかなる救済手段も講じようとしない。即ち、後続会員の獲得については全く助力せず、又、加入時の出資金の返還請求には一切応じようとしない。更に被告は、ある講の加入者につき、行きづまりの徴候が見え始めると、新たな装いをこらした講を考案して実施することにより、不断に入会金の利得を続けているのである。

(三) 本件各講への加入勧誘方法の違法性

被告は、加入を勧誘するに際して、自ら、或いは既加入者を使って、口頭又はパンフレット等の宣伝紙を用いて、次のような欺罔的な行為をなした。

(1) 被告は、本件各講の主宰者について、あたかも、経済に関する研究所のような印象を人に与える「第一相互経済研究所」という名称を用いることによって、被告個人でなく、団体が主宰者であるかのような虚偽の事実を宣伝した。

(2) 被告は、本件各講の目的が個人的利得にのみあるにも拘らず、真の目的を隠し、相互扶助、共存共栄などを目的とするものであるかのような虚偽の事実を宣伝した。

(3) 被告は、加入者が後続会員から送金を受けられる可能性が少いことを知りながら、パンフレットには、数週間ないし数ヶ月のうちに、満額の金員が送られてくる旨の記載をなした。

(4) 被告は、パンフレットに、第一相互経済研究所には、調査室及び連絡調整機構が完備しているから、各講が行きづまりを生じることはないと解されるような記載をなした。

(5) 被告は、加入者に対しては保養所無料利用権及び見舞金の制度がある旨宣伝したが、これらが加入後一年間で消失することは明示せず、あたかも、満額を得て講を離脱するまで継続するかのように宣伝した。

3  原告らの本件各講への加入と入会金の拠出

原告目録一記載の原告らは、本件各講のうち「交通安全マイハウス友の会」に加入し、原告目録二記載の原告らは、「相互経済協力会」に加入したものである。加入の時期は、佐野輝子、曽根淑子、大石悦子、興津勝代が昭和四六年五月であり、その余の原告らは、昭和四六年四月である。加入に際し、原告目録一記載の原告らは被告に対して二万円、被告の指定した者に対して八万円、合計一〇万円、原告目録二記載の原告らは、被告に対して一万円、被告の指定した者に対して三万円、合計四万円を送金した。そして、原告目録一記載の原告らのうち、番号16ないし21の原告らは、後順位会員より各々八万円の送金を受け、原告目録二記載の原告らのうち、番号41の原告は、後順位会員より三万円の送金を受けた。

4  原告らの被告に対する請求権の発生

被告は、本件各講の仕組が必然的に限界に達して行きづまること、会員相互間に紛争を生ぜしめること、類似の講を模倣する者が出てくること、人々の勤労意欲を失わせ、射倖心をあおることなども十分に知っていながらあえて自らの個人的利益追求のため、次々と本件各講を考案実施し、その加入勧誘に当っては、第一相研なる名称を用いて、共存共栄、助け合いを目的とするものであるとか、行きづまることはあり得ないなどと欺罔的な宣伝を大々的に行なって、原告らをして、加入すれば、真実被告の宣伝するとおりの金額を受領しうるものと誤信させ、その結果、原告らは、本件各講に加入したものである。

(一) 不当利得返還請求権

原告らは、被告との間で、本件各講への入会契約をなしたものであり、右契約に基づき、原告らは、被告及び被告の指定した者に対して、請求原因3記載の金員を送金したものであるところ、以上のとおり右契約は、公序良俗に反するものというべきであって、無効であるから、原告らが被告及び被告の指定した者に対して送金した金員は、被告の不当利得となり、原告らは右金員につき、不当利得返還請求権を有する。

(二) 不法行為に基づく損害賠償請求権

原告らが本件各講に加入したのは、被告の前記違法行為によるものであり、右違法行為により、原告らは被告及び被告の指定した者に対する送金額相当の損害を受けた。ただし、後順位加入者から送金を受けた者については、送金を受けた金額を控除した額に相当する実質上の損害を受けた。

よって、原告らは被告に対し、不当利得返還請求或は不法行為に基づく損害賠償請求として、原告目録一記載の原告らのうち、番号1ないし15の原告らに対し各金一〇万円、番号16ないし21の原告らに対し各金二万円、原告目録二記載の原告らのうち、番号22ないし40の原告らに対し各金四万円、番号41の原告に対し金一万円、及びこれらに対する本件訴状送達の翌日である昭和四七年四月二七日以降完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁及び被告の主張

1  請求原因1記載の事実について

請求原因1の(一)、(二)、(三)記載の事実のうち、本件各講の主宰者が被告であること、送金先が被告であること、送金すべき既加入者を指定するのが被告であることは否認し、その余の事実はすべて認める。

請求原因1の(四)記載の事実のうち、保養所を設立したのが被告であること、見舞金を送るのが被告であることは否認し、その余の事実はすべて認める。

本件各講の創設者、主宰者は、以下に述べるとおり、被告ではなく、権利能力なき社団である第一相互経済研究所(昭和四七年五月以降は、天下一家の会・第一相互経済研究所)であり、被告はその代表者にすぎない。

(一) 第一相互経済研究所設立の経緯及び事業内容

被告は、昭和一七年ころ、思想家である西村展蔵の主唱する天下一家の思想、即ち、「地上が一家となってはじめて地上の平和が来る。一国が一家となって一国の平和が来る。一県、一村、一工場、一団体等人の集まるものは総て一家の姿を為して始めてそこに平和があるものと信ずる。」「他の為に総てを捧げる一家の道徳は物を捧げます。誰も此の心になりますと誰にも彼にも得ることになります。捧げることが得ることになります。捧げる気持で得るのでありますから不平がありません。唯感謝の念に満つるのみであります。」と説かれた思想と、その根底に流れる「心、和、救け合い」という理念に触れて感銘を受け、昭和二三年ころからは、同人と親しく交際してその思想に深く傾倒するところとなり、同人が昭和三七年に死亡した後は、自ら、同人の思想をこの社会において具現しようと考えるに至った。被告は戦後二〇年間保険会社の外交員を勤めたが、現行の保険制度が真に困っている者を救い得ないものであることを実感するようになり、又、昭和四一年夏ころ、病気入院中に、借金苦のための一家心中事件等のニュースに接して、西村の前記思想の実践を願っていたことでもあり、金がないために不幸になる人達の多いこの世の中で何とか助け合う方法はないものかと考え、入院見舞に訪れた西村の思想的共鳴者であった中谷正次郎にも相談し、熟慮を重ねた結果、「親しき友の会」のシステムを考案した。被告はこの講により、加入者相互間の助け合い及び入会金による社会福祉の実現を企図したものである。

被告は、この構想を、橋口初徳らトップ会員九名に説明し、その賛同を得たので、昭和四二年三月、同人らと共に第一相互経済研究所を設立し、熊本市甲佐町の自宅を改造して事務所に提供し、自らその所長となり業務を開始した。昭和四四年二月、熊本市本山町六三五番地所在の旧福田ビルに自宅及び事務所を移転し、昭和四六年六月、同番地の右ビルに隣接して新築されたビルに更に移転して現在に至っている。「親しき友の会」を発足させた後、右講の加入者(以下、本件各講の加入者を「会員」と称する場合もある。)の要望により、昭和四四年六月に「相互経済協力会」、同年一二月に「交通安全マイハウス友の会」、昭和四五年一二月に「中小企業相互経済協力会」、同年一一月には本件各講とは仕組の異なる「蓄産経済協力会」をそれぞれ立案発足させた。昭和四五年の後半に至って、会員数も、のべ五〇万余となり、第一相互経済研究所は、経済的基盤が確立するに至った。被告は、この時期以前は、加入するについて人々に抵抗感を与えるおそれのある天下一家の思想という言葉を直接に表現するのはさし控え、その思想内容をパンフレットやルール自体に織り込むにとどめてきたが、この時期以降は天下一家の思想を直接に表面に出し、第一相互経済研究所を団体として形式的にも完備したものにすることにし、昭和四五年一二月、主旨及び綱領を成文化して第一相互経済研究所が天下一家の思想を実現するものであることを明示し、昭和四七年五月、定款を作成して、名称を天下一家の会・第一相互経済研究所とした。

天下一家の会・第一相互経済研究所(以下「第一相研」と略称する場合もある。)は、加入者から送られる入会金によって、次の事業を行なっている。

① 助け合いの精神に基づく相互扶助を目的とする各講の立案と育成

② 会員に対する保険、見舞金制度の実施

③ 研修保養所の運営

④ 社会福祉施策の実施

(二) 第一相互経済研究所の団体性の根拠

(1) 第一相研は、設立当初から一定の目的を有し、昭和四五年一二月、この目的は、「主旨」として成文化された。即ち「友愛と信頼、親和の基盤に立つ真実の福祉社会を実現させるため相互が救け合い共済する親和の精神による会を創り会員の権利増進と一般社会にも貢献するものである。常に明るい平和な社会、真理の社会を具現するを主旨とする。」というものである。

(2) 第一相研の運営は、会員の意思に基づいて行なわれている。

昭和四二年三月、第一相研設立から昭和四五年一二月までの期間、被告は、運営に関する重要事項については、中谷正次郎ほか数名の協力者の意見を求めて検討を加えており、又、第一相研に毎日来訪する多数の会員と早朝から深夜に至るまで膝を交えて意見を交わし、昭和四五年一二月から昭和四七年五月の定款作成までの期間は、被告又は幹部職員が地方に出張して広く会員の意見を徴することに努め、被告はその意見を体して運営を続けてきたのである。従って、形式的な株主総会等と比べ、第一相研の運営は、はるかに民主的かつ合理的であったということができる。又、右の期間においては、入会金の帰属主体は第一相研であり、入会金によって取得された財産の帰属も第一相研である。旧社屋、玉名保養所、自動車等の登記、登録名義人が被告とされているが、これは、第一相研が法人格を有していなかったためやむをえずとられた措置であって、それらの財産は、実質的には第一相研に帰属するのである。

昭和四七年五月、全国の会員から選出された会員代表一四〇名中九四名出席のもとに初めて会員総会が開かれ、そこにおいて定款が定められ、理事一五名、監事三名が選任され、また、被告を終身代表責任者とすることを定めた綱領第六条が確認され、更に、これ以前に被告名義で登記されていた不動産はじめ一部の資産を第一相研の基本財産として組み入れることが確認され、第一相研は名実共に人格なき社団として完成された。以来、会員総会は年一回開催され、基本財産の組入れ及び処分、歳入歳出予算及び決算の承認、役員の選任等が審議され、理事会は年間一〇回位開かれ、そこで事業計画等重要な会務の執行が決定されている。会員総会、理事会ともに多数決の原則で行われ、被告の独断で運営が行なわれる余地はない。又、国においても第一相研を権利能力なき社団と認め、昭和四七年五月以降法人税を課してきている。

このように、昭和四七年五月以降は無論のこと、それ以前においても、第一相研は団体として形成、整備されてゆく途上にあったのであるから、両者の間に実質的相違はないと解すべきであり、従って、第一相研は設立当初より団体性を有していたのである。

2  請求原因2記載の事実について

(一) 本件各講の仕組が違法であるとの主張は争う。

(1) 本件各講は、人口が有限であるから、必然的に行きづまりを生じて破綻する仕組になっているとの事実は否認する。本件各講が早期に破綻を来たすことがない理由は次のとおりである。

① 実際には理想公式どおりに後輩会員が連続することはなく、各会員の子会員獲得の時期の早い遅いによって、連続状態は不規則かつ複雑な様相となり、将来伸長してゆく系列とそうでない系列との判断は、現時点ではなし得ない。

② 本件各講全体の入会者口数は、最も多い時でも年間三〇万余口であり、しかも再加入による口数が多数存在しているから、現実に入会者数が幾何級数的に短期間に爆発的に増加することはあり得ない。

③ 本件各講の入会者の意図は様々であり、全ての加入者が満額金の取得を期待して入会してくるわけではない。中には、「孫取金」を当面期待して入会する者、運が良かったら送金を受けるかもしれないという程度の期待で入会する者も居るのである。又、入会者が当面期待している「孫取金」取得に必要な後輩会員数はきわめて少数で足りる。理想公式の場合でも、二口の「孫取金」を取得するために必要な後輩会員は累計六名(次順位会員二名、次々順位会員四名)、系列の連続の方法によっては累計四名(次順位二名、次々順位で、二段階先輩に送金指定を受ける者二名)で足りるのである。

④ 保養所無料利用権、見舞金受領権がいずれも加入後一年間に限られていること、「孫取金」二口の入金により比較的短期間に入会時拠出金を回収できることにより再入会する者が多い。

⑤ 入会時に先輩会員に送金して助けた人が後輩会員から送金を受けて助けられるという相互扶助を繰り返すことにより、本件各講は多数人の広域にわたる庶民金融の機能を果たしている。

(2) 本件各講が必然的に行きづまりを生じ、その結果会員間に紛争を生じさせているとの事実は否認する。本件各講の加入者には、所定の数の子会員を勧誘する義務があることは各講の仕組から明らかであり、加入者はこの仕組を納得の上、入会したのである。そして、この勧誘義務には期間制限があるわけではなく、又、第一相研が業務を停止したこともないのであるから、本件各講が行きづまるということはあり得ない。又、加入者相互間に紛争があったとしても、それはごく少数の例外的現象である上、第一相研に帰責事由のない一部加入者のルール違反又はあくどい勧誘方法などの特別事情によって生じたものである。

(3) 本件各講が、これを悪用する者によって多数の者に損害を与えたり、類似の講が設立されるなどの多くの社会悪の根源となっているとの事実は否認する。詐欺、出資法違反等で摘発された事例は本件各講とは根本的に異るルールの講或いは詐欺的勧誘手段をとる場合などであり、本件各講の運営実態とは何ら関係がない。

(4) 本件各講が著しく射倖的であり反社会性があるとの事実は否認する。本件各講は後輩会員が先輩会員に送金し、更に後輩会員からの送金を受けるという特定の会員相互間の助け合いとしての金員授受であって、「一方の偶然の利得が他方の偶然の損失を犠牲とする。」という関係とは全く異質なものである。又、社会的生産を伴わないという点についてみれば、本件各講が助け合いの精神を基調とする庶民金融であり、金融業務が元来何らの生産的活動や商品流通も伴わない以上、社会的生産を伴わないのは当然である。

(二) 本件各講の目的が違法であるとの主張は争う。

本件各講の創設、主宰の目的が被告個人の利得であるとの事実は否認する。被告は昭和四二年三月第一相研を設立すると同時に「親しき友の会」を発足させた。それ以後、各種の講が開設されたが、それらはいずれも経済状態の変動や会員の要望により必要に迫られて立案されたものであって、被告個人の収入や入会金増収をはかるためになされたものではない。即ち、「相互経済協力会」は貨幣価値の下落に対応して拠出金及び受取金を増額すること、「交通安全マイハウス友の会」は、住宅事情が逼迫している折から、受取金を家の建築が可能な金額にすること、「中小企業相互経済協力会」は、銀行などからの融資が思うにまかせない中小企業経営者の資金繰りを可能にすることを目的として、会員の要望に応じて開設されたのである。

又、被告が入会金を個人的に濫費しているとの事実は否認する。入会金は第一相研に帰属し、第一相研の目的に沿って、次のとおりの使途に宛てられている。

① 本件各講の存続に必要な事務処理経費

② 保険、見舞金制度実施の経費

③ 研修保養所の購入及び運営の費用

④ 社会福祉施策実施の経費即ち、各地の老人ホーム、幼稚園、交通遺児育英基金に対する寄附

(三) 本件各講への加入勧誘の方法が違法であるとの主張は争う。

第一相研も被告も勧誘に際して欺罔行為をしたことはなく、パンフレットを広く一般に配布したこともなく、他の宣伝紙を用いて宣伝したこともない。勧誘に際して被告らが口頭で述べたこと、及びパンフレット等に記載したことの中に虚偽の事実は全く存しない。即ち、

(1) 本件各講の主宰者が被告でなく第一相研であることは事実である。

(2) 本件各講主宰の目的は、事実、相互扶助、共存共栄助け合いである。

(3) 数週間ないし数ヶ月のうちに満額の金員が送られてくるとのパンフレットの記載は、入会金払込、受付、書類作成、発送、到達、所定の子会員勧誘という手続過程が全く無駄なしに行なわれたと仮定した場合の理想公式にすぎないのであり、被告自身、著書、講演等において、「運が良かったら目標額が回ってくるということであり、必ず目標額が来るという約束ではない。」旨述べて、誤解のないよう周知徹底を図っていたのである。

(4) 本件各講は、第一相研が業務を停止しないかぎり行きづまることはないことは事実である。

3  請求原因3記載の事実について

原告らが原告ら主張の時期に、それぞれ原告ら主張の講に加入し、第一相研及び第一相研の指定する者に所定の金員を送金したことは認める。送金を受けた者、送金先を指定した者が被告であるとの事実は否認する。

4  請求原因4記載の主張について

(一) 本件各講への入会契約が公序良俗に反し無効であるから、原告らは被告に対し、入会時に拠出した金員に対する不当利得返還請求権を有するとの主張は争う。

(二) 原告らの本件各講への加入時に拠出した金員が原告らの損害になるとの主張は争う。加入者が子会員を勧誘する期間には制限がないのであるから、現時点で子会員を勧誘し、孫会員までできれば、「孫取金」を取得し、入会時拠出金の回収及び多少の利益が得られるのである。

三  抗弁

請求原因4(一)の不当利得返還請求権の主張に対する仮定抗弁

仮に、本件各講への入会契約が公序良俗に反するものであるとしても、原告らは、本件各講の趣旨、目的及びその仕組について、パンフレット等により充分了解し納得した上で入会したものであるから、原告らは、自ら、不法の原因のため被告及び被告の指定した者に対し入会金等を給付したことになり、民法七〇八条本文によりその返還を請求することはできない。

四  抗弁に対する原告の主張

1  被告の不法原因給付の主張は、当事者の主張、立証が終了した後の弁論終結直前の段階でなされたものであるところ、右主張は、早期に主張し得たものであるにもかかわらず、被告訴訟代理人の重大な過失により早期に主張されなかったものであり、又、右主張に対する原告らの側の主張、立証が充分になされていないのであるから、右主張は時機に遅れた防禦方法として却下されるべきである。

2  仮に時機に遅れた防禦方法でないとしても、民法七〇八条本文の立法趣旨は、不徳な行為者は法が救済しないというところにあり、同条の適用を受けるのは、行為者が行為当時、公序良俗に反するとの認識を有する場合に限るものと解すべきところ、原告らは加入当時、本件各講が公序良俗に違反するとの認識を欠いていたのである。

更に、給付者が受給者に比し、不法性が小さく、受ける利益が少い場合は、同条本文に該当しないか、或いは同条但書を適用すべきであると解されるところ、原告らの不法性と受けた利益は被告に比してはるかに少いか又は全く存在しなかったのであるから、原告らは、不当利得返還請求権を有するのである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1記載の事実中、本件各講の主宰者が被告である点、そして、入会金の送金先、送金すべき先輩会員の指定や保養所の設立運営、傷害見舞金の送付をなす者が被告であるとの点を除いて、その余の事実については当事者間に争いがない。

被告は、本件各講の主宰者が、権利能力なき社団である第一相互経済研究所(昭和四七年五月以降は、天下一家の会・第一相互経済研究所)であり、被告はその代表者にすぎず、入会金の送金先、及び送金すべき先輩会員の指定、保養所の設置運営、見舞金の送付をなす者も第一相研である旨主張するので、まず、この点について検討する。

1  《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  被告は、昭和四二年三月、熊本市甲佐町の自宅に事務所を置いて、自ら、第一相互経済研究所と名乗って、実兄内村武雄、妹橋口千鶴子ら九名を原始会員として、無限連鎖式講、いわゆるネズミ講である「親しき友の会」を発足させた。右講の加入者は、同月が二一名、四月が一五六名、五月が一、〇〇六名、六月が四、八八二名、七月が一〇、一四四名と順次増加してきたので、被告は同年七月、第一相互経済研究所親しき友の会代表者名義で、合資会社福田部品との間に、同会社所有の同市本山町六三五番地の宅地二筆一、一二六・七七平米及び四階建鉄筋コンクリート建物(通称福田ビル)及び附属建物について、売買契約を結び、昭和四四年二月、自宅を同ビルに移転して、同所で右講を主宰するようになった。そして、被告は、同所において、同年六月には「相互経済協力会」、同年一二月には「交通安全マイハウス友の会」、翌昭和四五年一二月には、「中小企業相互経済協力会」の各ネズミ講を立案、実施した。昭和四五年末までの各講の加入者は、「親しき友の会」約一六万人、「相互経済協力会」約二二万人、「交通安全マイハウス友の会」約五万人であった。被告は、昭和四五年一二月ころ、別紙記載の「主旨」、「綱領」を定めて、本件各講が、親和の精神に基づく助け合いをその趣旨とする旨を公表した。そして、昭和四六年六月には、熊本市本山町六三五番地の敷地内に八階建のビルを新築し、同ビルに自宅及び事務所を移転した。被告は、かねてから、定款を作成して、第一相研を組織的に整備しようと企図していたものであるが、昭和四六年六月一五日に全国から加入者の有志を集めて前記新築ビルの落成式を行う際に、定款の起草委員を選出するなどして定款作成の準備を進めようとしていたところ、右落成式の前の同年六月五日、国税局の査察を受け、又、財産を差押えられるなどの事態が生じたため、それらの対策に追われて定款作成は一頓挫し、昭和四七年一月、各地の加入者と交流する中で起草委員が定まり、同年五月一一日、別紙記載の定款が作成され、同月二〇日、全国の加入者の有志を集めた会合において右定款が承認され、理事、監事等の役員が定まり、名称が、天下一家の会・第一相互経済研究所と改められた。この後、昭和四七年九月「花の輪Aコース」、「花の輪Bコース」、「花の輪Cコース」、昭和四九年「洗心協力会」のネズミ講がそれぞれ立案、実施された。

被告は、昭和四六年六月の査察の後も、昭和四七年二月一六日、所得税法違反の疑いで熊本地方検察庁により逮捕され、同年三月七日、同法違反で熊本地裁に起訴されたり、又、加入者らの告訴に基づき、同地検により、詐欺罪の疑いで捜査を受けたことがある。

(2)  前記の査察以後、被告は、事業報告書(昭和四九年度以後は事業概要)を公表するようになったが、それによれば、本件各講の実態は次のとおりである。

① 本件各講の入会収入

講名

期間(自)

(至)

昭和四六年七月

同  四八年三月

同四八年四月

同四九年三月

同四九年四月

同五〇年三月

同五〇年四月

同五一年三月

同五一年四月

同五二年三月

同五二年四月

同五三年三月

親しき友の会

(百万円未満

四捨五入)

相互経済協力会

四千万円

(五〇〇万円)

一千万円

五千万円

四千万円

一千万円

交通安全マイ

ハウス友の会

三億円

一億三千万円

二億八千万円

四億八千万円

四億二千万円

一億円

中小企業相互

経済協力会

七千万円

五億四千万円

二七億四千万円

五五億二千万円

四五億六千万円

六億八千万円

花の輪Aコース

一千万円

二千万円

六千万円

六千万円

七千万円

一千万円

花の輪Bコース

三千万円

七千万円

一億六千万円

八億八千万円

四億七千万円

一億一千万円

花の輪Cコース

一千万円

八千万円

一億八千万円

五億円

九億五千万円

九千万円

洗心協力会

一億八千万円

二二億三千万円

四四億六千万円

一六億五千万円

合計

四億六千万円

八億四千万円

三六億一千万円

七七億二千万円

一〇九億七千万円

二六億五千万円

二六二億五千万円

② 支部、連絡所、保養所数

支部

連絡所

保養所

昭和四九年三月現在

一三県

八ヶ所

五〇年三月

一三県

二一ヶ所

九ヶ所

五一年三月

一二県一府

二六ヶ所

一〇ヶ所

五二年三月

一二県一都一府

(一都に五ヶ所)

六一ヶ所

二〇ヶ所

五三年三月

一二県一都一府

(一都に五ヶ所)

六九ヶ所

二〇ヶ所

③ 昭和五二年五月現在の基本財産

熊本市本山町六三五番地 第一相互経済研究所の土地、建物、動産

東京都杉並区今川二丁目一二―一九 東京事務所の土地、建物、動産

研修保養所二〇ヶ所の各土地、建物、動産

山林、原野、鉱泉地(群馬県)、一、二五六ha

山林、原野   (兵庫県)四九、九四一ha

山林      (大分県) 一、一一九ha

④ 傷害見舞金の支出状況

昭和四六年七月から四八年三月

一八九、六〇〇、〇〇〇円(共済見舞金として支出)

昭和四八年四月から四九年三月

九六、八八七、〇〇円(会員傷害保険料として)

昭和四九年四月から五〇年三月

四、七八〇、〇〇〇円(見舞金として)

一三、二七〇、〇〇〇円(共済給付金として)

四六二、九二九、八〇〇円(傷害保険料として)

昭和五〇年四月から五一年三月

一二九、九四〇、〇〇〇円(共済給付金として)

昭和五一年四月から五二年三月

三一一、二三〇、〇〇〇円(共済給付金として)

昭和五二年四月から五三年三月

一八七、七四〇、〇〇〇円(共済給付金として)

昭和四九年、契約していた保険会社から解約申入れを受けたため、被告は自ら共済組合を設置して、加入者の該当者に対して給付する制度に切り替え、以後傷害等の見舞金は共済給付金として支出されている。

(3) 被告は、昭和四八年一一月、宗教法人大観宮を設立してその代表役員となり、事務所を第一相研ビルに、社務所を熊本県阿蘇郡阿蘇町小里六一〇番地に置き、目的として、「天御中主大を始め五柱の神として大観宮の教義をひろめ、儀式行事を行ない、信者を教化育成することを目的とする。」と定めている。また、被告は、昭和四八年三月、昭和二二年七月に設立したまま休眠状態であった財団法人肥後厚生会の役員に就任し、被告の長男内村文伴、中谷正次郎ら五名をも役員に就任させ、同年五月、その名称を財団法人天下一家の会と変更して登記を経由した。しかしながら、右の変更登記は、昭和五二年一二月、手続違背として熊本地方法務局が職権抹消するところとなり、現在は財団法人肥後厚生会の名称に復しているため、財団法人天下一家の会は存在しない。

2 以上認定した事実によれば、第一相研は昭和四七年五月に定款を作成し、機構を整備して社団の外観を一応は備えるに至ったと解されるから、右の定款作成時の前後に大別して、第一相研の社団性につき検討する。

(一)  昭和四二年三月発足から昭和四七年五月定款作成までの時期

(1)  昭和四二年三月から昭和四五年一二月までの間は、団体の根本規則らしい外観を備えたものは全く成文化されていない。昭和四五年一二月に、「主旨」「綱領」が作成され、「中小企業相互経済協力会」のパンフレットなどに記載されて公表されたが、団体の目的、会員の範囲、会員の権利義務などはきわめて抽象的であり、会の運営についても、綱領第六条に、「本研究所、同体の会の代表者は創始者内村健一を以て終身代表責任者と定める。但し組織運営責任者に所長(会長)壱名、常務六名、計七名以上とする。」と定めてはあるが、その選出方法、権限、常務会などに関する規定は全く見当らず、やはり抽象的で実体のないものと言わざるをえない。

(2)  第一相研には、会員の総意を反映し得る機関、即ち意思決定機関である会員総会に該当するものは存在しない。又、会の運営、財産の管理についても、中谷正次郎、緒方敬弘などの常務と称する者が「常務会」を設けていたとしても、それは、執行機関としての機能を有するものではなく、運営は被告個人の意思で行なわれていたものであって、中谷、緒方らは被告の相談相手ないし手足のごとき存在であったにすぎないものと認められる。

又、昭和四六年当時には、すでに、長野県、山形県、宮崎県など数県において、講の加入者の有志が集まって、任意的に支部と称するものを作ってはいたが、いずれも少数の有志の集まりでしかなく、当該支部のある県の加入者全員を組織していたものではない。被告は、この時期の会の運営について、第一相研に来訪する全国の加入者や、被告及び常務と名乗る者らが地方に出張した際に接する加入者の意見を聞いて運営したものであると主張するが、このことは却って、第一相研には、正規の手続を経て構成され加入者の意思を反映しうる議決機関や執行機関が存在しなかったこと、従って、被告が恣意的に、特定の親交のある個人や、たまたま接触のあった一部加入者の意見のみを聞いて、自らの意思のみによって第一相研を運営していたことを示しているに外ならないのである。

(3)  入会金で購入した旧福田ビル、玉名保養所その他の保養所等の不動産及び自動車などの登記登録名義は、第一相研に法人格が認められていないから当然被告の名義になっている。この点につき、被告は、これらの財産の帰属主体は社団としての実質を有する第一相研であり、第一相研に権利能力が認められていなかったため、やむなく買主として被告個人を表示したものであると主張するところ、合資会社福田部品から旧福田ビルを購入した際の売買契約公正証書には、「元来、買主は第一相互経済研究所親しき友の会代表者内村健一とすべきところ、本契約につき公正証書を作成するに当っては都合により買主を内村健一個人にて表示するものとする。」と記載されていることが《証拠省略》によって認められるが、前認定のとおり、第一相研には団体としての実体がなく、従って、右財産の管理、処分の権限が実質上被告個人にのみあったと認められる以上、公正証書に右のような記載をなしたことをもって、社団性の根拠と評価することはできない。

(二)  昭和四七年五月以後の時期

(1)  昭和四七年五月の定款作成の時点において、本件各講の加入者数は、「相互経済協力会」約三八万名、「交通安全マイハウス友の会」約一六万名、「中小企業相互経済協力会」約八千名、「親しき友の会」約一七万名、合計約七二万名であったことについては当事者間に争いがないが、これらの加入者全員を構成員とする社団を創設する場合には、創設時に現に存在する構成員となるべき者の意思に依るものであることは当然であり、従って、それらの者の意思が正当に反映しうる手続のもとに創立総会、定款作成等の社団設立の手続が行なわれるべきものであるところ、《証拠省略》によれば、昭和四七年五月二〇日に行なわれた第一回の会員総会に参加した加入者は、被告が、恣意的に通知を出した者、或いは、静岡県東部支部などのように、加入者の有志によって、任意的に設置されていた各地の「支部」の中から、任意的に参加した者等であると認められる。従って、この総会は、総会開催の通知が全加入者になされたわけでもなく、代表者選出基準もなく、大多数の加入者の知らない間に開催されたものである。よって、右総会において承認されたとされる定款には、重大な手続上の瑕疵が存するものと言わざるをえない。

(2)  第一相研の構成員(以下「会員」という場合もある。)とされるものの範囲については、定款第七条第一項によれば、本件各講の加入者全員とも解される。しかし、同条第三項には更に、「会員となった者は毎年一回以上同一組織に加入するものとする」との定めがあり、この定めが会員の資格要件であると解すれば、加入後一年経過して再度加入しない者は、会員資格を喪失するものと解さざるをえないが、他方、定款第八条には、会員資格の喪失事由として、死亡、退会の申出、除名が掲げられているにすぎない。《証拠省略》によれば、被告及び第一相研の「幹部」と称する者のこの点に関する供述にも、一貫したものがないことが認められる。従って、会員の範囲については、加入者全員なのか、加入後一年未満の者及び再加入して一年未満の者に限られるのか、一たん加入した者は満額を受領した後も会員資格があるのか否かいずれも不明である。

(3)  会員の権利義務について検討してみると、まず権利については、加入後一年にかぎり、保養所の無料利用権及び傷害見舞金の受給権があることは当事者間に争いがないが、その他の社団構成員として通常有する諸権利に関しては、その有無につきあいまいであるか、又は会員が本来有すべき権利を有していないことが認められる。即ち、支部の存在しない地域の会員の定時総会の代議員選出権及び被選出権、議決権、帳簿閲覧調査権などについての定めは全証拠によっても認めることはできず、《証拠省略》によれば、実質上、帳簿閲覧は、会員には認められていない。また、その他の権利についても、《証拠省略》によれば、被告自身、子会員二名を勧誘することをもって、ある場合には会員の権利と述べ、ある場合には会員の義務であると主張するなど、会員の権利義務の定めが不明確である。

(4)  第一相研の意思決定機関及び執行機関に関する定款の定めを検討するのに、まず、会員総会については、第一五条に、「各支部において選出された会員代表によって構成する。」と定められているが、支部の設置については、第二五条の(2)において、理事会の決議事項とされているものであるところ、《証拠省略》によれば、昭和五三年三月現在、一二県一都(五ヶ所)一府に設置されているのみであり、大部分の県においては、設置されていない。また、《証拠省略》によれば、被告自ら、支部組織はあってもなくてもよい旨述べている。また《証拠省略》によれば、支部設置の基準は未だできておらず、申出により認可を与えているのが現状である。従って、いずれの支部にも属しない会員が多数存在することになり、これらの会員は、前記の定款の定めによれば、大会代表の選出の機会を有しないことになる。そして《証拠省略》によれば、被告は実際に会員総会を開催する場合には、支部のある所では、支部単位に新聞広告により支部会員総会を広告し、そこにおいて総会代議員を選出し、支部のない所では、被告自ら、総会に出席しそうな会員宛に通知を出したり連絡所から通知を出すと述べているのであるが、もし被告の述べるとおりであるとすれば、支部も連絡所もない地域の加入者は大会開催の通知を受ける機会を持たず、連絡所のある地域でも、恣意的に加入者の一部に通知するのみであるから、大部分の会員は、代表選出の機会及び代表となって議決権を行使する機会を与えられていないことになる。従って、第一相研の定時総会は社団の有すべき構成員全員の意思が反映しうる総会とは、手続上ほど遠いものであり、多数決原理が機能しているとは認め難く、従って、第一相研の総会は社団の総会の実質を備えているとはいえない。

(5)  役員について検討すると、定款第二〇条には、「本会の創始者内村健一は終身理事であり、会長となる。」と定められ、更に、同条には、第一九条において、一五人以上三〇人以内とされている理事のうち、「三分の一は会長の指名とし、その余の理事及び監事は、会員のなかから会員総会の決議により選任する。」と定められている。しかしながら、社団の役員は、社団構成員の多数の意思が変動した場合には、その変動に従って交代すべきであると解されるから、右の定めが、役員の中の会長及び理事の三分の一について、会員の意思の変動による交代を予想していない点、構成員の多数の意思による決定から除外した点は、社団の執行機関としての実質を備えていないことを示すものと言わざるをえない。更に、理事と称する者については、《証拠省略》によれば、熊本市に在住している者はなく、《証拠省略》によれば、重要事項について知らない理事が居るなど、定款第二五条の事項を附議するとの理事会の機能が果たされているとは認められず、理事会は実際には、被告個人の意思による業務の運営を追認するのみの存在であると言わざるをえない。

(6)  《証拠省略》によれば、被告及びその家族、被告の長男内村文伴の家族は、第一相研の建物内に居住して建物の一部を占有使用していることが認められるが、全証拠によっても被告及び長男が、第一相研から右ビルの一部を賃借して、賃借料を支払っているとの事実は認められず、従って、被告及びその一族は、右建物を個人的支配内に置いているものと解さざるをえない。

(7)  理由一の1の(3)で認定した事実によれば、被告は、第一相研と実質上同一体と認められる宗教法人大観宮の代表役員であり、元財団法人天下一家の会の会長であり、第一相研、大観宮、天下一家の会、いずれも被告がその創始者として絶大な権限を有しており、いずれも被告が運営管理しているものと解され、そして、いずれも、その実質は、被告がそれぞれの事業をなすに際しての被告の別称にすぎず、ことに第一相互経済研究所は、形式的にも実質的にも被告と同体異名のものであると解される。

以上により、本件各講の主宰者が被告でなく権利能力なき社団である第一相研であるとの被告の主張は採用できない。

二 次に、被告の行為の違法性の有無について検討する。

1 本件各講の仕組の違法性の有無

(一)  本件各講は、会員が増加し続けるという前提が続くかぎり、次々と送金を受けて目標額を入手しうることになるが、人口が無限でないことは自明のことであるから、会員が増加し続けることはあり得ず、従って、加入者が尽きた時には、加入時に金員を拠出はしたが、どこからも送金されて来ないという無数の会員を残して、会は終りを告げるということになる。《証拠省略》によれば、被告は、「内村会長語録」の中で、人間が次々と生まれてくるから、加入者が尽きることはないと述べていることが認められるが、一人の人間が数ヶ月の間に二人の子供(夫婦なら四人の子供)を生み、生まれた子が数ヶ月で成人してまた二人の子を生むという人口増加を前提にしないかぎり、この主張は成り立たない。《証拠省略》によれば、被告は、又、この会のシステムを理解した会員なら必ず再入会するはずであると述べていることが認められるけれども、先輩会員への送金のほかに、被告に対する入会金の送金があるかぎり、加入者が何回加入しても、損失を得る者が必ず出てくるのは自明のことである。被告は、更に、加入時の順位から第一順位になるまでの間には事務処理のための日数を要し、一日三千人程度が限度であるから、早期に限界に達することはないと主張する。《証拠省略》によれば、昭和四六年当時第一相研の常務としての地位にあった緒方敬弘は、一例をあげて、五〇〇万人の人が入るまでに要する年月につき、日本の現状の郵便機構の下では、一年間に一〇〇万人の処理をするのが限界であるから、五〇〇万人入るためには五年間かかると述べていることが認められる。そこで、原始会員八名で発足したという「相互経済協力会」「交通安全マイハウス友の会」「中小企業相互経済協力会」の場合を考えてみると、二五代目で既に日本の人口を上まわる一億三四三三万七七二八名となることになるが、この前の二四代目の会員数六七一六万八八六四名の処理に要する日数は、右緒方の証言のとおりとすると、六七年余ということになる。従って、加入する時期が遅い者ほど、二代後輩の会員から送られてくる「孫取金」の受領にさえ、何十年という期間を要することになり、満額受領は何百年先のことという結果となるが、これは、本件各講の欺瞞性を自ら認めているのと同じである。即ち、本件各講は、会員が増加して会が発展すればするほど、人口上の限界のためばかりでなく、事務処理上の限界によって、損失を受ける者の数が多くなるという仕組になっているのである。従って、本件各講は、早く行きづまれば被害者数は少くてすむが、被害者を出さないで終るということは絶対にあり得ない。しかも、どこで講が終っても、被告は絶対に損害を受けることがない。早く終れば、被告の受ける利得のふえ方が減少するのみなのである。

(二)  本件各講は、その仕組の本質から必ず破綻をきたすものであることは、本項(一)に記載したとおりであるが、更に、現実問題としても子会員の獲得は容易ではないことが推測できる。なぜなら、本件各講が理論的に限界に達することは、大多数の者が直ちに気付きうること、自ら子会員獲得の努力をしない者も居ること、努力をしても成功しない場合が多いこと、子会員獲得前に死亡する者も居ること、入会金を出捐しうる資力のある知人や友人が居ない者も居ること、ある地域では、周囲の知人、友人が既に殆んど講に加入してしまっていることなどの困難が当然あるはずだからである。そして、ある系列で子会員を獲得しない者が出てくると、その系列はそれ以上に伸びることはなく、その系列の先順位会員は、送金を受ける機会を失うのである。そして、本件各講は、加入者が入会金等を拠出しなければならないため、子会員を獲得する際には必然的に親族や知人を対象とすることが多くなるものであるが、先に述べたように、系列が行きづまり、送金を受けられなくなった場合、加入者は、自己の損害を取り戻すため、まず、自己を勧誘して加入させた勧誘者に対して、損害の填補を要求するのは、当然のなりゆきといわなければならない。従って、本件各講は、親族間、知人間の紛争の原因となる本質を内在しているものといわざるをえない。《証拠省略》を総合すれば、父母や夫や妻、兄弟、子供などの親族を加入させ、更にその者のために親族の他の者を加入させ一家全体で多額の入会金等を送金したが、後順位会員が続かず全額が損害となり、その結果、夫婦、親子、兄弟間の家庭紛争が生じたこと、資金繰りの困難であった中小企業家が、短期間に返済できると考えて入会金相当の金額の融資を受けたが、「孫取金」さえ一口も送金されず、却って、取引先、従業員等の信頼を失い事業に困難をきたしたこと、同じく中小企業家が子会員獲得のため、事業を放り出して事業継続を困難にしたこと、自宅の周囲の者たちを加入させたが送金がなかったため地域での信用を失い居住しにくくなったこと、子会員に責められて夜逃げしたり、自殺する者も出たこと等の事例が各地で生じたことが認められる。また、学生、老人、寡婦など貧しい者が、乏しい貯えや、街の金融機関から借金して入会金等を捻出して加入したが、結局その入会金さえ回収できないまま終った例も数多く認められ、本件各講は深刻な社会問題を発生させている。

(三)  本件各講は、一切の社会的生産や商品流通などを伴うことなく、他人からの送金により、出資金よりはるかに多くの利益を得る可能性を有する仕組になっている。しかし、他からの送金を受け得るか否かは、自ら子会員を勧誘した後は、自己の関知しない後順位会員らの子会員獲得の成否にかかっており、先述の子会員獲得を困難にする諸事情を考慮すると、後順位会員からの送金は多分に偶然性に左右されるものといわざるをえない。また、本件各講は、早晩行きづまりを生じることは必至であり、行きづまりを生じた系列において、下二段の会員は全く送金を受けることがないことは前述のとおりであるから送金を受け得た者も、多数人の犠牲により利得したということになるのである。

このように本件各講は、多数人の犠牲において、偶然的に利得する要素を有するものであるから、人の射倖心をそそり、健全な勤労意欲を失わしめる特質を有するものであることは否定できない。

以上のとおり、本件各講はその仕組自体、必ず破綻して損失をこうむったままとり残される会員が多数になること、親族や知人に紛争を生ぜしめること、射倖心をあおることなどを考慮すれば、違法なものといわざるをえない。

2 被告の行為の違法性

被告は本件各講につき、それぞれ後記のパンフレット等を発行して、入会金を被告に対して送金してきた加入者に対し、子会員勧誘のためとして、それらを送付した。即ち、《証拠省略》によれば、「第一相互経済研究所ご案内」と題するパンフレットには、「あなたの繁栄を御約束する……!!」「傷害、死亡の見舞金 相互経済協力会一、〇〇〇、〇〇〇円」「相互経済協力会元金四〇、〇〇〇円、受取額一、〇二〇、〇〇〇円」などの記載があるが、右パンフレットには、見舞金受領期間が加入後一年以内であるとの記載はなく、又、相互経済協力会の場合、二人を勧誘し七段階を経れば右の受取額を当然受取りうるものであるかのように記載されていることが認められる。《証拠省略》によれば、「交通安全マイハウス友の会御入会のおすすめ」と題するパンフレットには、「貴方が細則に従ってこの主旨を確実に実行してくれる親友二人にこの会に賛同する様勧誘し、その友から次の友へと紹介から紹介で継続されて行くことによって数ヶ月後には貴方のグループの人達から五〇〇万円ものお金が順次送られてくることになるのです。」「これを継続するための調査室及び連絡調整機構も完備致しておりますので安心して御入会下さいます事をおすすめ致します。」との記載が認められ、《証拠省略》によれば、「第一相互経済協力会御入会のおすすめ!!」と題する書面には、「数週間後には貴方のグループの人達から約一〇〇万円ものお金が順次送られてくることになるのです。」との記載が認められ、《証拠省略》によれば、「おっと失礼」と題する書面には、「次の様にすれば簡単に楽々と楽しみながら“夢”が叶えられます。さて一〇〇万円づくりの近道は先ず四万円用意することです。そして友人二人を『相互経済協力会員』にお誘いするだけです。」との記載が認められる。以上によれば、被告はパンフレットによって、加入者は所定の子会員を勧誘するだけで、数週間或いは数ヶ月後には満額を受領しうるような虚偽の宣伝をなしたことが認められる。この点につき《証拠省略》によれば、被告は、数週間ないし数ヶ月というのは「孫取金」の一口目が送金され始める期間を指す旨述べているが、前記のパンフレットの記載から被告の述べるような解釈は到底成り立たないものである。又、行きづまりの危惧に対しては、調査室や連絡調整室を完備してあるから安心せよという根拠のない虚偽の宣伝をしている。更に、《証拠省略》によれば、「交通安全マイハウス友の会」と題する書面には、講の行きづまりに関して「でも御安心下さい。加入してから①番にランクされるまでに要する日数はどうでしょう。研究所に振替で払込む→受付→書類作成→発送→お手許へ→二名勧誘と計算してゆく途中一日のロスもなく処理されていったとしても四、五ヶ月位かかります。しかも同時に全ての人が加入あるいは処理するわけではありません。更に人口には限りがあるといいますが、現在の時点ですべてをストップさせたならば人口も有限です。しかし、現実は違います。次々に子供が生まれて来ます。人口は将来に向って無限大ですから最後ということはないのです。その間、自分で何回入ってもいいのです。こう考えできますと数字は無限であるということがおわかりいただけたことと思います。迷うことはありません。」との記載が認められ、《証拠省略》によれば、被告は「内村会長語録」の中で、同趣旨のことを記載し、又、自ら、或いは「常務」を介して各地で右のような講演をし、「無限軌道」なる意味の不明確な言葉を用いて、本件各講は行きづまることがありえないと述べ、本件各講が、人口増加、郵便事務に要する日数、再加入などのどのような事情を考慮に入れても、必ず破綻する必然性を有することを故意におおい隠して、多数の人を欺罔したことが認められる。また、《証拠省略》によれば、被告は、保養所が無料で利用できる旨宣伝したが、その際、当然その期間が加入後一年に限られることを明示すべきであるのにこれをしなかったことが認められ、《証拠省略》によれば、保養所が無料で利用できるという勧誘者のことばによって、講に加入した者も居ることが認められる。よって、被告は、一年間の期間制限について故意に明示せずに、加入者を欺罔したものと解される。また、《証拠省略》によれば、昭和四六年当時常務と称していた緒方敬弘が、同年三月妙高高原保養所の開所式において、出席していた加入者らに対し、被告の代弁者として、本件各講が破綻をきたすことは絶対にない旨、及び、もし講が停止状態に立ち至った時は、加入時に出捐した金員については補償する旨を述べて送金が受けられない場合には元金は補償されるものと誤信させたことが認められる。

以上のとおりであるから、被告の前記各行為は違法であると言わざるをえない。

三 請求原因3記載のとおり、原告らがその主張の時期に本件各講に加入したこと、原告らが加入に際し、その主張の金員を拠出したことは、当事者間に争いがない。そして、《証拠省略》を総合すれば、原告らは、本件各講に加入するに当っては、被告らの前記宣伝内容が真実であって、本件各講がたやすく行きづまることはなく、所定のとおり後続加入者から送金を受けられ、少なくとも出資金の回収はできるものと信じていたことを推認することができる。

以上認定した事実によれば、被告は、本件各講が、人口上の限界、事務処理能力の限界、個人の子会員獲得上の障害などにより、講全体はもとより、部分的な系列においても、早期に行きづまりを生ずる仕組であることや、その結果、会員同志、とりわけ親族間、知人間の紛争が必然的に生ずること、国民の射倖心をそそり健全な勤労意欲を失わせること、大部分の加入者が損失をこうむること等については、これを知りながら、本件各講を考案実施し、主宰していたものと推認するのが相当である。そして、被告は本件各講が右のような違法な仕組であることを認識しながら、前認定のように、被告発行のパンフレットや講演等において、加入すれば、数週間ないし数ヶ月後に満額が受領できるとか、人口は将来に向って無限であるから行きづまることはないとか、本件各講の目的が助け合いにあるとかの欺罔的な宣伝を行ない、その結果原告らをして被告の宣伝内容が真実なものであって、所定のとおり後続加入者から送金を受けられるものと誤信させて本件各講に加入させ、被告及び被告の指定した者に対して、各講所定の金員を送金させ、原告らに右送金額と同額の損害を与えたのであるから、被告の所為は不法行為を構成するものと言うことができる。

ところで、不法行為者は、相手方に対し、当該不法行為と相当因果関係の範囲内にある損害について賠償責任を負うものと解すべきところ、原告らが被告に対してなした送金の額が、被告の本件不法行為と相当因果関係の範囲内にある損害であることは論をまたないが、原告らが被告の指定した者に対してなした送金の額も、以上認定した事実によれば、被告の本件不法行為と相当因果関係の範囲内にある損害と解するのが相当である。なお、原告らのうち、後順位会員から送金を受けた者は、前記の損害のうち送金を受けた分につき損害が填補されたものと解すべきであるから、現実の損害は、入会時拠出金から送金を受けた分を控除した金額となる。

よって、不法行為を理由として被告に対し右損害の賠償を求める原告らの請求はその理由がある。

四 以上のとおりで、原告らの本訴請求は、不法行為に基づく損害賠償請求につきその理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松岡登 裁判官 紙浦健二 稲葉耶季)

〈以下省略〉

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